Playing Chess with God


Playing Chess with God - research!rsc

チェスのルールを使用したパズルの一種に「エンドゲーム」と呼ばれるものがある。将棋で言うところの「詰め将棋」のようなものなのだけれど,ごく少数の駒から構成されていて,いかにも人工的なパズルに見えるという点で,その他のチェス・プロブレムと異なる。

UNIX の開発者のひとりとして有名なケン・トンプソンは,コンピューター・チェスの研究者としても有名で,そんなトンプソンさんが行った研究のひとつに,「エンドゲームの完全な解を求める」というものがある。

やり方は簡単で,まず「チェックメイトの状態の駒の配置」をしらみつぶしに調べる。次に,「そこから一手前の状態としてありうる駒の配置」をしらみつぶしに調べる。次にまた「そこから一手前の状態」を調べて,次にまた調べて……と繰り返し調べていく。新しい駒の配置が見つからなくなったら終了。これで「チェックメイトからn手前の状態としてありうる駒の配置」の完全なデータベースが得られるというわけ。

トンプソンさんの最初の論文では,まず駒の数が5個の場合のエンドゲームを調べている。この頃(1986年)のコンピューターの能力では,5個までが限界と考えたんだね。続いて 1996 年の論文では,駒の数が6個の場合に挑戦している。

こうして完全なデータベースがひとたび作り上げられてしまえば,コンピューターはエンドゲームに関して「全てを知る存在」になることができる。どんな駒の配置が与えられても,そのゲームが勝つ運命にあるのか,負ける運命にあるのかを,瞬時に見極めることができる。もし勝ちなら,何手でどんな手を打てばいいのかも,すべて知っている。まさに「神のチェス」というわけ。