Datamoshing - 映像の乱れの技法


Hackety.org - How Are Those Guys Datamoshing?

Datamoshing とは,部分的に破壊された圧縮映像を再生する際に現れる「映像の乱れ」をエフェクトとして活用する技法のこと。 2000 年代後半になって登場した比較的新しい技法であり,これを意識的に使用したのは David OReilly や Takeshi Murata などのアーティストが最初であるとされている。

Datamoshing の原理と制作手順については Rosa Menkman による記事によくまとめられている。基本的には,特定のコーデックによって圧縮された映像を,特定の(解析しやすい)コンテナに格納し,その中からキーフレーム (I-Frame) を探し出して,バイナリエディタを使って破壊するだけ。こうして改変された映像データを特定のプレイヤーで再生すると,動き補償の基準となるフレームを失ったまま動き補償を行うことになり(それをやってくれないプレイヤーもあるため,プレイヤーは選ばなくてはならない),元映像の動きの情報によって画像が掻き混ぜられるという,非常に複雑で奇妙な効果が生まれる。

Datamoshing の技法の面白いところは,ひとつに,「技術」が「質感」に変わる瞬間を見ているという点にあると思う。以前,「JPEG 圧縮によるモスキートノイズが『味』として解釈されるようになる日がいつか来る」というようなことを言っていた絵描きさんがいたのだけれど,なかなかそういった感情を持つ機会は,これまでに現れなかった。また,「MP3 のエンコーダーによる音質の劣化の違いが『個性』として解釈されるようになる日が来るかもしれない」というようなことを言っていたミュージシャンもいたのだけれど,これもやはり,そのような心境になる機会はこれまでになかった。 Datamoshing の登場は,このような「『技術』が『質感』になる日」がとうとう来るのだということを予感させる出来事だと思う。

もうひとつの面白い点は,この技法は非常に情報量の多い映像効果であるということ。例えば,何か他のまっとうな映像エフェクトを使うときに,どの程度の情報をそこに与えているかを考えてみて欲しい。せいぜい十数個のスライダーをいじって設定を行うものじゃないだろうか。それがこの datamoshing では,元の映像に含まれる動きの情報すべてが,画像を変化させていく要素となって与えられる。それは十数個のスライダーをチクチクと調整していくよりも,劇的に複雑な効果を簡単に生み出すことができるという可能性を秘めていると思う。