CEDEC 2010 三日目

三日目のCEDECMIT石井先生の基調講演から参加した。いわゆる「タンジブル」という言葉にはバズワードの匂いを感じるものの、最先端の研究者であるところの石井先生が使う分には差し支えない。他の人が語ったら絵空事になってしまいそうなことを、説得力を持って理論展開することができるというのは素晴らしいことだ。基調講演として最適なテーマだったと思う。

石井先生が紹介したものの中で個人的に好きだったのは、musicBottlesというプロジェクトだ。瓶の蓋を開けると音楽が流れてくる。まるで、蓋を開けた香水の瓶から香りが流れ出てくるように。「瓶の蓋を開ける」という、大昔から人々が日常の中で繰り返してきた物理的なアクションを、デジタルな機構の中のインタフェースとして融合させたものだ。

この日のセッションの中で個人的に最も参考になったのは、セガの長谷川さんによる「海外協業に役立つGDD、TDDの書き方」だった。ちなみに、GDDというのはGame Design Documentの略であり、TDDはTechnical Design Documentの略だ(Test Driven Developmentではないよ)。

海外のパブリッシャーとの協業においては、本制作へと入る前に、ゲームデザインの全体像をまとめた文書―GDDと、技術的な方針についてまとめた文書―TDDの提出が求められるという。これらの文書は、ゲームを構成する要素の全体に渡って詳細な記述を行うことが求められており、その分量は100ページ余から電話帳サイズになることもあるという。これらの文書がちゃんと用意できなければ、本制作に入ることは許されないというのだ。

一昨日の「はじめての日米共同開発」でも語られていたように、昨今の欧米の開発スタイルにおいては、全ての作業のベースとして詳細な文書を作成することが求められるらしい。僕は今回のCEDECを通じて初めて、そのシリアスさについて知ることができた。

僕は欧米のパブリッシャーと直接やりとりした経験は無いけれど、このセッションを受けることによって、以前から持っていたいくつかの疑問を解くことができた。欧米のパブリッシャーがマイルストーンと文書に対して厳密さを求めるというのは、是非とも多くの人に知っておいてもらいたいことだ。