静止画による運動残効


これは,静止画でも運動残効が生じることを確かめたくて作成した動画。ただ,残念ながら失敗している。ぜんぜん効果が分からない……。

運動残効 (motion aftereffect) とは,ものの動きが目に残ってしまう現象のこと。下の映像のような錯視のネタとしてよく使われる。「画面をしばらく見続けて周囲に視線をずらすと,景色がグネグネと歪んで見える」というやつ。

http://youtube.com/watch?v=vzSRVgF501M

このような一定の動きを繰り返す映像をしばらく見続けると,視覚系の中にある「動きを感じる部分」が動きの刺激に順応してしまう。すると,「動きを感じる部分」は刺激に対してバイアスのかかった状態になる。その状態で刺激が止むと,バイアスの分だけ逆方向への刺激を受けているように錯覚してしまう。それで,「景色がグネグネと歪んで見える」というわけ。

それで,ここからが本題なのだけれど,スタンフォード大のとある心理学者が,静止画からも運動残効を作り出すことができるのではないかと仮説をたてて,実験を行った。このことについては Mixing Memory に詳しい解説がある。元の論文はこちら

この実験では,上の動画でもやっているように,「動きのある写真」を約100枚集めて,それを約0.5秒間隔で切り替えつつ連続して見せるという刺激を行った。そしてその後に,「左右のどちらかに向かって微妙に動くランダムドットパターン」を1秒間だけ見せて,そのドットが左右のどちらに動いているかを当てさせた。

結果,「右方向への動きのある写真」を見せた場合は,ドットが左方向に動いていると答える頻度が上がり,「左方向へ動きのある写真」を見せた場合は,ドットが右方向に動いていると答える頻度が上がった。また,その効果は,刺激の後にほんの数秒の遅延を追加すると弱まった。

この結果は,「動きのある写真」が「動きを感じる部分」のはたらきに影響を与えるという可能性を示唆している。つまり,「動きのある画」から「動き」を感じ取るという心のはたらきは,高度な認知や文脈からの推察などだけではなく,本当に動いているものを見るときと同じように動きを感じているのではないか……ということ。

これを分かりやすく体感できるような映像を作ることができれば良かったのだけれど,どうやら,かなり厳密な方法で実験を行ってようやくデータが得られるというような,非常に微妙な効果であるらしい。残念ながら今回は失敗ということで……。