曖昧な立体感

Cool Visual Illusions: Rotating Eyes on Inverted Faces - Mixing memory

上の動画は, 2008 年の Best Visual Illusion of the Year Contest の3位を獲得した作品。「マスクの裏面が,まるで表面のように見える」という錯視を,CGではなく実物のマスクで試したもの。非常に良くできた錯視だと思う。特に,マスクの側面から表裏が反転する瞬間など,とても不思議な感覚が得られる。眼球がこちらを見つめているように感じられるところや,鼻輪が不自然な動きをしているように感じられるところなどにも注目すると面白い。

この錯視は,人間の視覚において「顔面は凸形状である」というバイアスが働いていることから生じるものと考えられる。たいていの人は凹形状の顔面なんて見たことが無いから,このように凹凸の曖昧なビジュアルが与えられると,自然に感じられる凸形状の方で解釈を行ってしまう。それで,裏面までもが表面として見えてきてしまう。

これと似ていて,ちょっと異なる錯視として,下のようなものがある。


Silhouette Illusion - ProcreoFlashDesign

女性のシルエットがぐるぐると回っているだけのアニメーションなのだけれど,このアニメーションも立体感が曖昧なために,時計回りにも,反時計回りにも解釈することができるという,多義性が生じている。

このアニメーションの場合は,時計回りと反時計回りに本質的な差は無く,どちらも等しく解釈が可能なように思える。しかし実際には,時計回りの方にバイアスが働いているらしい。「どう見ても時計回りにしか見えない」という人もいるようだ。 Cognitive Daily が行った読者サーベイ(1,600 サンプル)によれば,約 2/3 の読者が「時計回りに見える」と答え,約 1/3 の読者が「解釈を反転させることができない」と答えたという。このバイアスについては,納得のいく説明を見たことがない。

最後におまけ。下のドラゴンの錯視はとても有名なものだけれど,これもやはり立体感の曖昧さから生じるものと理解できる。この場合はドラゴンのデザインが秀逸で,凹面よりも凸面と解釈した方が自然になるよう工夫されているのがポイント。人によっては,マスクの錯視よりも凹状態を見抜くことが難しいと感じられるかもしれない。