氷河期を生きた笛

上の写真は,昨年ドイツのホーレ・フェルス洞穴から発掘された笛だ。炭素年代測定によっておよそ3万5千年前のものであることが確認されている。これまでに発見された中で最古の笛*1のひとつだ。

ホーレ・フェルスの笛は,素材としてコブハクチョウの翼の骨やケナガマンモス象牙を使用している。吹き口はV字の溝になっており,指穴として5つの穴が掘られている。5穴というのは笛の中ではかなり単純な部類に入るけれど,これによって音程の概念を音楽に取り入れていたことは疑いようがない。

この笛がどんな音を奏でるのかは,まだ誰も確認していない。恐らく今後,レプリカから音色を確認する研究が行われるのではないかと思う。

ホーレ・フェルスの洞穴は世界最古の女性像が発見された場所としても有名だ。これらの文化の形跡は,この時代の人類が既に高い社会性を備えていたことを物語っている。その社会性は,氷河期の厳しい環境の中で大きな集団の団結を作り上げることを可能にしていた。それこそが,同時代を生きながらも絶滅に至ったネアンデルタール人との明暗を分けた違いなのかもしれない。

*1:これよりも古い時代の笛としてDivje Babe 遺跡の笛が挙げられることもあるが,こちらはこれが本当に笛であるかどうかに疑いがかけられている。