大人の科学・シンセサイザークロニクル ― 本の方も面白い


別冊大人の科学マガジン・シンセサイザークロニクルを買った。もちろん,付録の SX-150 が目当てなのだけれど,本の方も案外面白かった! 懐古的な薀蓄話で固めてしまうのではなく,インタビューを軸にして記事を構成しているのが良かったのだと思う。

個人的に興味深かったのは,ローランド創業者の梯郁太郎さんへのインタービュー記事。ここでまさか創業者にインタビューを敢行するとは……。松武さんの人脈の為せるわざなのだろうと思う。

たった4ページのインタビューの中にも名言が盛りだくさんなのだけれど,なかでもお気に入りなのが最後のひとこと。ローランドが映像製品の開発に着手していることに関してのコメントだった。

「マイクもPAも何もなかった時代は演奏がすべて。つまり映像と音声は常にいっしょにあった。それがレコードができてからは音だけを別にして売るようになりましたよね。それがコンピューターがこれだけ普及したおかげでまたひとつになることができる。そんな時代がもうそこまで来てるんですよ。考えてもみなさい、どちらも時間を扱う芸術です。そこにまだ壁があるように感じるのなら、それはきっと錯覚でしょう」

レコードの発明が音楽のあり方を変えた,というのはよく言われることで,今では音楽といえばもっぱら録音されたもののことを指すようになっている。でも,本来の音楽というのは,演奏者と聴衆の掛け合いの中に存在するもの。その掛け合いの中には,音を使って伝わるものだけでなく,視覚を使って伝わるものだって,もちろんある。

だから,ローランドみたいな楽器メーカーは「視覚を演奏する楽器」を作ろうとチャレンジする。以前はコルグも同じようなものを作ろうと頑張っていたのだけれど,採算に乗せるのは相当難しかったらしく,今ではすっかり撤退してしまった。でも,コスト的な制約が緩んで面白くなってくるのはこれからだと思う。ぜひローランドには今後も頑張って欲しい。